インフルエンザは毎年冬になると必ず流行し、人口の5~10%の人が感染するので、日本では600万~1200万人の患者が発生しています。学級閉鎖や仕事を休む必要があり、人々の日常生活に支障をきたすことから、マスコミでいつも話題になっています。
飛沫・接触・空気感染をする感染力の強いウイルスで、A型とB型の2種類があります。潜伏期間は1~2日と短く、突然の悪寒、高熱で始まるのが特徴的です。頭痛、咽頭痛、関節痛、筋肉痛なども出てきます。咳、鼻水は少し遅れて出てくることもあります。発熱は3~5日間続きますが、自然経過で1~2週間で完全に治癒します。
流行状況と症状から診断は難しくありませんが、鼻腔からの抗原検査で確定診断ができます。熱が出てすぐに抗原検査をしてもウイルス量が少ないため陽性にならないことがあるので、検査をするなら翌日のほうがいいと思います。
治療は抗ウイルス剤(内服、吸入、点滴)があります。発症後48時間以内に使用するとウイルスの増殖が抑えられ、有熱期間が短くなります。高熱や頭痛にはアセトアミノフェン(商品名:アンヒバ、カロナール、コカールなど)のみは安全に使えますが、他の強い解熱鎮痛剤は使いません。
自然経過で治癒する病気なので、持病のない健康な人では、無理に抗ウイルス剤は使用しなくてもいいと思います。発症後48時間以内の場合は、抗ウイルス剤を使うかどうかは、保護者と相談してから処方するようにしています。圧倒的に使用したい人が多いのですが、中には「インフルエンザとわかったので安心しました。安静にさせて経過をみるので、タミフルは要りません」というお母さんもいます。風潮に流されることなくしっかりとした考えを持ったお母さんだと思います。
合併症として中耳炎、筋炎、気管支炎、クループ、細気管支炎、肺炎などがあります。急に熱が高くなるので、熱性けいれんをおこすこともよくあります。まれに5歳以下の子どもに脳症を合併します。脳症はインフルエンザにかかってすぐに、けいれん、意識障害、異常行動などの症状で発症してきます。後遺症が残ったり、亡くなることもある怖ろしい合併症です。決定的な治療法は確立されていませんし、早めの抗ウイルス剤の投与が有効かどうかも不明です。
予防はワクチンを受けることです。他のワクチンに比べれば予防効果は低いですが、重症化するのを防ぎます。
学校保健安全法での出席停止の期間ですが、今までは解熱後2日を経過するまででしたが、抗ウイルス剤の出現によって早く解熱するようになったため、2012年4月に改定されました。発症後5日を経過して、かつ解熱後2日(幼稚園は3日)を経過するまでに変更されました。
~抗ウイルス剤の内服に関して思うこと~
インフルエンザは自然に治る病気なので、健康な人がかかった時にわざわざ抗原検査をして抗ウイルス剤を内服するという状況には少し疑問が残ります。以前に抗生剤の乱用で抗生剤の効かない耐性菌が出現したように、こんなにたくさんの抗ウイルス剤を使用していたら、そのうちつよい耐性をもったインフルエンザウィルスが出てくるのではないかとても心配です。すでにタミフル耐性のウイルスは出現しています。
診断・治療をする私たち医療サイドも注意しなければいけませんが、「インフルエンザなら48時間以内に検査・診断をしてもらって、薬をのまなくては一大事になる」と思い込んだ患者さんの来院が多くみられます。これはマスコミによる影響も大きいと思います。
かかりつけの患者さんでは色々と説明して納得してもらえることもあります。しかし、休日・夜間診療所などでの救急当番の場合には、ほとんどが初めて出会う患者さんであり、しかも受診の目的は「抗ウイルス剤の薬の処方希望」です。無用なトラブルは避けたいので、仕方なく健康な人のインフルエンザにも抗ウイルス剤を出しています。
本当は高齢者や持病があり、インフルエンザにかかると生命の危険のある人、特別な事情(季節柄入試シーズンです)で早い回復が望まれる人などに限って抗ウイルス剤は使用するのがいいのではないかと思います。
現在の日本でのタミフルの使用量は世界中の80%を占めています。圧倒的な数字で驚きます。そろそろ、毎年、流行するインフルエンザに対しての抗ウイルス剤の適応を考えてみてはどうかなと感じています。